EVが加速する社会変化A - 生活の足、バスもEVに − 中国に追いつき追い越せるか

EVが加速する社会変化A

生活の足、バスもEVに − 中国に追いつき追い越せるか

電動フルフラットバスの実証研究のキックオフイベントの様子 図1:電動フルフラットバスの実証研究のキックオフイベントの様子

 電気自動車(EV)の話題では、小型の乗用車の開発と商品化が注目されている。
 そんな中、最近にわかに注目を集め始めたのが、公共交通機関であるバスやタクシーへのEV導入だ。

 8月の初め、神奈川県と慶應義塾大学、いすゞ自動車が、電動フルフラットバスの普及モデル策定とシステム化を目指した実証研究を共同で行うことを発表した(図1、図2)。さらに8月下旬になると、三菱ふそうトラック・バスと三菱重工が電気バスを共同開発、この市場への新規参入を決めたことが報じられた。リチウムイオン2次電池は、東芝と三菱重工がそれぞれ供給する見込みである。

いすゞ自動車による電動フルフラットバスのデザイン検討事例 図2:いすゞ自動車による電動フルフラットバスのデザイン検討事例

 私たちの生活の足とも言えるバスがEVになることには、CO2の排出量が削減され、地球温暖化の軽減に役立つという大義名分がある。ただ、それだけでは、それら車両のEV化のコストや経済性を考えると高くついて割りに合わないのでは、と感じる人も多いかもしれない。そこで、バスのEV化がもたらす利用シーンから私たちの生活や社会がどう変化するかを一度考えてみたい。

(大場淳一=テクノアソシエーツ)

EVバスは良い事だらけ

 まず、現在一般的なバスの利用シーンとして、路線バス、高速バス、観光バス、コミュニティバスの4つを考える。路線バスは、都市内や都市間に定められた一般道上の路線を運行ダイヤに基づいて走行し乗客を輸送する交通機関である。路線や一日の走行距離がある程度定まっていることから、現在のEVの課題である走行距離が、バスではあまり問題にならない。また、停留所やバスターミナル、営業所・車庫など駐停車する場所に充電器を設置することで、頻繁に充電が可能となるため、搭載するバッテリー容量をある程度軽減することもできる。また、運行面では、軽油などの燃料を中心としたランニングコストがEVバスではおよそ10分の1になると試算されている。
以上は、バスのメーカーや運行業者からの観点だが、利用者側の視点ではどうか。

 まず、ランニングコストが10分の1に下がるのであれば、直接的には運賃の値下げが行われる可能性がある。もちろん、運転手の人件費などもあるので、例えば現在200円の路線が20円というのは無理でも半額の100円程度にはなるかもしれない。これは、学童やお年寄りなどクルマの運転ができず所得も限られている方々にとって朗報となることだろう。

 次に、ディーゼルエンジンが電気モーターに変わると、ディーゼルエンジンの騒音が無くなってしまう。街中ではバスのエンジンによる騒音が気になることがあるが、バスがすべてEVに換わると騒音レベルが何デシベルか下がるだろう。もちろん、聴覚が不自由な方にとっては脅威となるため、何らかの対策を講じることは言うまでもない。

 また、EVバスは排気ガスも出さないため、CO2はもとよりディーゼルエンジン特有の排気ガスの臭いからも開放され、街の空気が今よりもずっときれいになるだろう。(もちろんバスだけではなく、他のクルマもEVにならなければならないが。)

快適安眠、EV高速バス

 主に都市内や近距離での都市間を定められた区間や路線で運行する路線バスに対して、長距離の都市間を結ぶのが高速バスだ。これがEVになるとどうなるか。EVによる路線バスと同様のメリットは、EV高速バスでも同様に享受可能となる。バス乗客の観点で特に大きく変わるのは、乗り心地や静粛性が大幅に向上することだろう。

 例えば、東京と大阪や仙台などの主要都市間を運行する高速バスでは、夜行バスの設定もある。安い運賃や移動の間を睡眠に当てられることによる時間の節約などから、高速バスを選ぶ利用者も多いが、中には眠れないから夜行はイヤだという人もいる。EVバスなら、走行音が基本的にタイヤと道路による音だけになり、静粛性が格段に上がる。そのため、EV高速バスの運行が開始されれば、今よりももっと夜行便の利用者が増えるかもしれない。

エコツアーにはEV観光バス

 観光バスは、定期観光バスなど同じ経路をほぼ毎日運行するものもあり、路線バスに含められる場合もあるが、ここでは都市の中心部、駅や空港から名所・旧跡などの観光地へ運行するものを定期・不定期に関わらず観光バスと定義する。

 観光バスは、街中の観光名所だけでなく郊外や山間の僻地まで幅広いエリアを走行することになるため、EVがこの分野に導入されるには、やはり走行距離の課題が解決されなければならない。しかし、そういった技術課題が解決されれば、それら観光地での大気や生態系にほとんど影響を与えずに、観光客や旅客にとってより快適な旅の経験を提供できる。その意義は非常に大きい。

 例えば、日本には現在世界自然遺産が3箇所ある。北海道の知床半島、青森県の白神山地、鹿児島県の屋久島だ。このような地域には旅行代理店などがツアー商品の設定を行っているが、移動に使われるバスは当然ディーゼルエンジンの従来車であり、貴重な世界自然遺産を保全するためには決して好ましいとは言えない。逆に、EVバスをこれらのツアー商品に組み込めば、それ以外の要素にはそれほど手をかけずに「エコツアー」という位置づけで、高い価値を顧客に提供することができるのだ。

早期の実用化に期待:EVコミュニティバス

 最後に、コミュニティバスへのEV適用を考える。
コミュニティバスは、主に市区町村レベルの自治体などが運行する一種の路線バスである。コミュニティバスの役割としては、電車や地下鉄、路線バスなどではカバーされていない交通の空白地域に公共交通サービスを提供すること、地域内の主要施設や観光スポットなどを循環すること、などがある。いずれの場合でも、一般の路線バスよりも狭い路線エリア、小型の車両で定員数が20名程度と少ないのが特徴である。

千葉県佐倉市のユーカリが丘で行われた実証実験の電動バス 図3:千葉県佐倉市のユーカリが丘で行われた実証実験の電動バス
(写真提供:山万株式会社)

 このコミュニティバスにおいても、ランニングコストの低さ、静粛性、排気ガスがないこと、などEVバスのメリットはすべて享受できる。それにもましてEVコミュニティバスに注目したいのは、車両が小型軽量であること、短距離走行が中心であることなどから、実用化が最も近いEVバスになる可能性があるからだ。

 実際、この4月から6月の間、早稲田大学と昭和飛行機工業が開発した電動バスを用いて千葉県佐倉市のユーカリが丘で実証試験走行が行われた(図3)。この実証試験のEVバスでは、車体の設計を工夫し、停留所での非接触充電方式を採用することで、実用的に問題ない運行が可能であることが証明された。

日の丸EVバスは、中国に追いつき追い越せるか

 上述のように、EVによるバスの実証試験や実用化を目指した開発が日本国内で活発化しているのは、地球温暖化対策として、あるいは経済活性化の一環として非常に良いことである。
 一方、中国のようにEVバスが実証試験から実用化の段階に入っている国もある。
 神奈川県の発表資料によれば、北京ではオリンピック期間中に選手移動用として活用されたEVバス約50台が現在は業務用に運行されているという。さらに、今年中に50台が追加される予定である。また、上海でもEVバスの運行が開始されている。
 バス会社である大衆交通が、上海電力公司と上海瑞華グループなどが開発したEVバス10台の運行を7月から開始したという。来年の上海万博での使用も踏まえつつ、今後3年以内に同型のEVバスを800台導入、現在使用中のトロリーバスを順次置き換える予定ということだ。

 EVバスに対する安全性や完成度など、中国のEVバスが日本と同程度なのか定かではないのだが、EVバス実用化という点で中国が先んじていることだけは確かだ。
 日本勢のEVバス開発が中国に追いつき、やがては追い越せるのか、今後の進展に注目したい。


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